【論文メモ】HPLC-UV-MS上UV検出器の紫外線によるサンプルの酸化

2019年3月1日

論文メモ

HPLC-UV-MS分析において、UV検出器から出る紫外線がサンプルを酸化させてしまい、artifactとしてMSスペクトル上に検出されるという報告。

対象文献

HPLC–UV–MS Analysis: A Source for Severe Oxidation Artifacts
著者 (所属機関):Fritz Schweikart and Gustaf Hulthe (アストラゼネカ)
ジャーナル (発行年月):Analytical Chemistry (2019/01)

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.8b05845

原著abstract

HPLC coupled to both UV and MS is an established setup for purity assessments in many areas. With evolving technology, instrument sensitivity increases, calling for lower sample concentration, while light flux in a commercial UV detector cell is considerably higher than earlier. This evolution has now reached the point where radicals formed by UV light are abundant enough, compared to the analyte levels, to generate unwanted artifact signals in the MS spectrum. In this work we show several examples from pharmaceutical development where UV degradation in the UV detector leads to severely misleading mass spectra in typical day to day samples.

(全訳)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に、UV/Vis(紫外可視分光)検出器と質量分析計(MS)を接続したHPLC-UV-MSシステムは、多くの分析現場で汎用されている。技術革新に伴い、より低濃度のサンプルも測定・検出できるようになった一方、UV検出器セルに照射される光束も以前より高くなった。 この結果、分析対象に比べて相対的に多量のラジカルが、UVによって生成し、MSスペクトル上でartifactを生成するほどになった。 本研究では、医薬品開発を例に、UV検出器による酸化が通常の日々の分析サンプルで誤解を招くマススペクトルをもたらすことを示す。

概要

【方法】

著者らは10種類以上の試料を用いて、UV検出器による測定中の分析試料の酸化を実証しています。測定対象は、アミノ酸、ペプチド、タンパク、核酸、低分子化合物など…。

【結果】

UVの影響は、送液ルート中のサンプル濃度が低い部分で大きくなっていました。確かにピークトップ(2)に比べてピークの開始点(1)と終了点(3)は酸化体ピークが強く現われています。ピークの終了部分では+1~+5酸化体までもが検出されております。

Figure 1. Mass spectra of Bombesin (Pyr-QRLG-NQWAVGHLM-NH2) in the (1) early, (2) main, and (3) late eluting fraction of the peak (Agilent/Bruker system). For comparison, the MS spectrum with the UV lamp switched off is shown as “no UV.”.

献では様々な試料(Bombesin, Cytochrome C, 10残基程度のペプチド, Trp, Met, ketoprofen等)に対して既知の酸化分解物と1酸化体から3酸化体(+16~+48)までを測定し、1-3酸化体ピークそれぞれが未変化体ピークに対して、50%程度の相対強度で検出されているものもありました。

さらに著者らは、このような酸化体ピークの出現を以下の2つの方法で防げることを示しています。
① UV lightをOFFにする
② 移動相中にBHTを加える

試料の酸化は、B相の有機溶媒がメタノールとアセトニトリルのどちらでも認められますが、アセトニトリルのほうがより酸化体が生成していたようです。また、流速は照射される時間に直接関わるので速いほど酸化されていませんでした。

所感

UV/vis検出器の紫外線が試料の酸化の原因になるっていうのは可能性としてはわかっていましたが、実際にここまでするとは思いませんでした。

本文献の内容が問題になるのは、未知物質の測定時でしょうか。メタボロミクスで極微量の未知代謝物の測定時には誤って酸化体を別物としてカウントしたり、相対定量では誤差の原因になりそうです。

原因はUVによって生成したヒドロキシラジカル等の活性酸素種(ROS: Reactive Oxygen Species)との反応や、254 nm付近に吸光波長をもつ化合物が励起して分解or間接光分解することによるものですね。

酸化しやすい試料の測定時は気を付けたほう良さそうですね。特にメチオニン(Met)・トリプトファン(Trp)・システイン(Cys)・チロシン(Tyr)などのアミノ酸やこれらを含むぺプチド・タンパク質、光増感物質に分類されるような化合物、すなわち芳香環やカルボニル基をもつ化合物など。
まあ正直MS分析でUVスペクトルをしっかり参照することがあまりないので、いっそOFFでもアリかも…。

LC-UV-MSを用いた一般的な定量分析では、内部・外部標準物質を用いていており、これらも同様に酸化されるはずなので、分析にはあまり影響しないような気がします(極低濃度レベルでサンプルが酸化したら定量下限レベルが上がってしまうかもしれませんが…)。