無料の量子化学計算ソフト・プログラムはどれがいいのか

2019年9月19日

量子化学計算ソフト・プログラムで有名&圧倒的シェアがあるのはGaussianと思いますが、軽く数百万円します。より安価なものでも数十万円〜という世界。自分のような素人が興味本位で始めるには敷居が高すぎます。

量子化学計算、特にDFT(密度汎関数理論)計算をできるフリーのソフト・プログラムについて調べました。

量子化学計算ソフト・プログラム一覧

Wikipediaにあるソフトウェアリストを調べてみると、フリーでも多くのものがあることがわかります。また、少し古いですが以下のページで「Gaussianの代わるおすすめソフト」に関する質問もありました。その中で、オープンソースの無料ソフトで気になった以下のものについてまとめます。

GAMESS、Firefly

下4つと違い、GUIのソフトウェア。

GAMESS(US)とFireflyの違いって何?の解説が分かりやすかった。

Quantum ESPRESSO

QUANTUM ESPRESSO は、電子的構造計算やナノスケールの材料設計のためのオープンソースコードの統合パッケージです。 密度汎関数法、平面波近似モデル、擬ポテンシャルモデルに基づく計算が可能です。 さらに、基底状態計算、構造最適化、遷移状態および最小エネルギー経路、非経験的分子動力学、反応プロパティ、光学的プロパティ、量子遷移などの計算が可能です。

京都大学化学研究所 スーパーコンピューターシステム

公式ドキュメントが充実しており、東北大の研究室(理学研究科)作成の日本語チュートリアルもある。

無料のプログラムの中で一番有力派なのか学術論文での使用も多く、機能・速度ともに商用ソフトに匹敵するのと評判があった。結晶構造の最適化など固体材料系の分野で強い。内部の言語はfortanで、GPU(CUDA)での並列化が可能。

NWChem

大規模計算化学の問題を効率的に処理するためのプログラム。数千プロセッサーレベルまで並列化できるらしい。内部はfortanで書かれており、GPU(CUDA)での並列化が可能。その超並列計算を活かして、遷移状態や大規模分子のシミュレーションに強み。

psi4

pythonインターフェースから計算を実行できるので、コードが読みやすく、プログラミングを始めたばかりpythonユーザーに嬉しい。計算速度が必要な部分はC++で書かれているが、GPU accelerationはない。

その代わりにか、量子化学計算を量子コンピュータで実行できるように橋渡しするプラグイン「OpenFermion(Google)」と連携できたり、量子計算フレームワーク「Qiskit(IBM)」と連動していたりする。(量子化学計算や組合せ最適化問題などは量子コンピューターによって高速化の恩恵を受けられるとされる)

どれが速いか

Githubに有志の人たちが実施したQuantum Chemistry Speed Testがありました。

4年以上前の結果の上、実行環境・並列化利用の有無・内部のBLASなどの要因で現在とは違うかもしれませんが、計算の速さは NWchem > Firefly > GAMESS > Psi4 という感じです。

各量子化学計算プログラムの文献数、引用数

各プログラムの文献数を調べてみた。ヒット数は誤ヒットもあるかもしれないので参考まで。Gaussianはバージョン03, 09, 16とかいろいろあるので実際はもっと多くなります。

以上いろいろ比べてみましたが、どのソフトを使うかの最優先条件は「自分がしたい計算ができるか」で選ぶべきと思いました。単に量子化学計算といっても有機化合物からタンパク質・固体材料など分野は広く、それぞれで使うべき理論も違ってきます(低~中分子の有機化合物に対してB3LYP/6-31G(d) レベルで計算する程度であれば、どのソフトでもできそうでしたが )